代償分割とは?代償金の支払いが必要になるケースや金額の決め方などを弁護士が解説
「不動産しか遺産がない場合、どうやって分ければいいんだろう?」
「故人が所有していた自社株を単独で取得するにはどうすればいいのか?」
このようなお悩みはありませんか?
相続において不動産や事業用資産など分割しにくい遺産を相続する際、他の相続人に金銭を支払うことで公平な分割を実現する方法が「代償分割」です。
この記事では、代償分割の基本的な仕組みから、代償金が必要になる具体的なケース、金額の決め方、計算方法まで、弁護士が詳しく解説します。
また、代償分割のメリット・デメリット、遺産分割協議書の作成方法といった実務的な手続きの流れもご紹介します。
代償金の金額で合意できない場合や支払いができない場合の対処法など、トラブルになりやすいポイントと解決策も理解できます。不動産などを現物のまま相続したい方、公平な遺産分割を実現したい方は、ぜひ参考にしてください。
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目次

1. 代償分割とは
1.1 代償分割の基本的な仕組み
代償分割とは、相続人の一部が遺産を現物で取得する代わりに、他の相続人に対して金銭(代償金)を支払う遺産分割の方法です。
民法では特定の条文で定められているわけではありませんが、遺産分割の実務において広く認められている方法となっています。
たとえば、父親が亡くなって3000万円の自宅不動産が遺産として残された場合を考えてみましょう。
相続人が長男と次男の2人であれば、法定相続分はそれぞれ2分の1ずつです。長男が自宅に住み続けたい場合、長男が不動産を取得する代わりに、次男に対して1500万円の代償金を支払うことで公平な分割が実現できます。
代償分割の特徴は、遺産を物理的に分けることなく、金銭で調整することで各相続人の取り分を公平にする点にあります。この方法により、分割が困難な財産であっても相続人間で適切に分配することが可能となります。
1.2 遺産分割における代償分割の位置づけ
遺産分割には大きく分けて4つの方法があり、代償分割はその中の1つとして位置づけられています。それぞれの方法は遺産の内容や相続人の状況によって使い分けられます。
1.2.1 現物分割
遺産をそのままの形で分ける方法です。複数の不動産や預金など、分割しやすい財産がある場合に適しています。
1.2.2 代償分割
一部の相続人が遺産を取得し、他の相続人に金銭を支払う方法です。自宅不動産など分割が困難な財産がある場合に適しています。
1.2.3 換価分割
遺産を売却して現金化し、その代金を分ける方法です。相続人全員が不動産などの財産を必要としない場合に適しています。
1.2.4 共有分割
遺産を相続人全員で共有する方法です。現物分割・代償分割・換価分割のいずれもできない場合の方法です。
1.2.5 代償分割の重要性
代償分割は実務上、非常に重要な役割を果たしています。
特に、不動産や事業用資産など物理的に分けることが難しい財産が遺産の大部分を占める場合に、現実的な解決策として選ばれることが多くなっています。
また、代償分割は相続人間の協議により柔軟に利用できるため、家庭裁判所の調停や審判でも頻繁に採用される方法です。相続財産を処分せずに済むという点で、相続人の意向を尊重した分割方法といえます。
1.3 他の遺産分割方法との違い
代償分割と他の分割方法の違いを理解することで、ご自身のケースにどの方法が適しているかを判断しやすくなります。
まず、現物分割との違いです。現物分割は遺産をそのままの形で分ける方法ですが、代償分割では特定の相続人が遺産を取得し、金銭で調整する点が異なります。
たとえば、同じ価値の2つの不動産がある場合、現物分割では長男が不動産A、次男が不動産Bを取得しますが、代償分割では長男が両方の不動産を取得して次男に代償金を支払うことになります。
換価分割との大きな違いは、遺産を売却するかどうかです。換価分割では遺産を第三者に売却して現金化しますが、代償分割では遺産を売却せずに特定の相続人が保有し続けることができるため、思い入れのある自宅や事業を継続したい場合に適しています。
共有分割と比較すると、代償分割は将来的なトラブルを防ぐ効果があります。共有分割では複数の相続人が1つの財産を共同で所有するため、その後の処分や管理をめぐって問題が生じやすくなります。
一方、代償分割では各相続人の権利関係が明確になるため、後々のトラブルを避けやすいという利点があります。
代償分割を選択する際の重要なポイントは、代償金を支払う相続人に十分な資力があるかどうかです。この点が確保できれば、遺産を適切に保全しながら公平な分割を実現できる、非常に有効な方法となります。
2. 代償金の支払いが必要になるケース
代償金の支払いが必要になるのは、相続財産を現物のまま分けることが難しく、特定の相続人が遺産を取得する代わりに他の相続人に金銭を支払う場合です。
ここでは、具体的にどのようなケースで代償分割が活用されるのかを見ていきましょう。
2.1 不動産を相続する場合
代償分割がもっとも多く利用されるのが、自宅や土地などの不動産を相続するケースです。不動産は物理的に分割することが困難であり、仮に分筆すると価値が下がってしまうこともあります。
たとえば、親が住んでいた自宅を相続する場合、子ども2人が相続人であるとします。この自宅の評価額が3000万円で、法定相続分は各2分の1ずつです。
長男がこの自宅に住み続けたい場合、自宅を長男が取得し、次男に1500万円の代償金を支払うことで公平な分割が実現できます。
不動産を共有名義にする方法もありますが、共有状態では売却や活用の際に全員の同意が必要となり、将来的なトラブルの原因になりやすいため、代償分割を選択するケースが増えています。
| 遺産分割の方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 代償分割 | 単独所有で管理しやすい | 代償金の準備が必要 |
| 共有分割 | 代償金が不要 | 将来的なトラブルリスク |
| 換価分割 | 現金で公平に分割 | 不動産を手放す必要がある |
2.2 事業用資産を相続する場合
被相続人が個人事業主や会社経営者だった場合、事業用資産を分割すると事業の継続が困難になる可能性があります。このようなケースでも代償分割が有効です。
たとえば、飲食店を営んでいた父親が亡くなり、長女が事業を継承したいと考えているケースを考えてみましょう。
店舗の建物や設備、取引先との関係など、事業用資産を一体として引き継ぐ必要があります。この場合、長女が事業用資産すべてを相続し、他の相続人である次女と三女に代償金を支払うことで、事業を継続しながら公平な遺産分割を実現できます。
農地や農業機械を相続する場合も同様です。農地を細かく分割してしまうと農業経営が成り立たなくなるため、農業を継ぐ相続人が一括して相続し、他の相続人に代償金を支払う方法が適しています。
2.3 遺産が現物で分割しにくい場合
不動産や事業用資産以外にも、物理的または法律的に分割が困難な財産があります。このような財産を相続する際にも代償分割が活用されます。
具体的には以下のような財産が該当します。
- 美術品や骨董品などの高額な動産
- ゴルフ会員権やリゾート会員権
- 知的財産権(著作権や特許権)
- 上場していない会社の株式
- 貴金属や宝飾品
たとえば、被相続人が収集していた美術品コレクションがある場合、これを物理的に分けることはできません。また、価値の評価も難しく、バラバラに売却すると価値が下がってしまう可能性もあります。
このような場合、美術品に興味のある相続人が一括して取得し、他の相続人に代償金を支払う方法が合理的です。
また、非上場会社の株式を相続する場合も、株式を分散させると会社の経営に支障をきたす可能性があるため、経営を継続する相続人が株式をまとめて取得し、代償金を支払うケースが多く見られます。
2.4 相続人の一人が遺産を取得したい場合
遺産を分割すること自体は可能でも、特定の相続人が思い入れや実用上の理由から遺産を取得したいと希望する場合にも代償分割が選択されます。
たとえば、親と同居していた長男が実家をそのまま引き継ぎたい場合や、親の介護をしていた長女が親の預金を多めに相続したいと考える場合などです。
他の相続人も特定の財産を希望することがあり、それぞれの希望を尊重しながら公平な分割を実現するために代償金による調整が行われます。
また、住宅ローンの残債がある不動産を相続する場合、債務を引き継ぐ相続人が不動産も取得し、他の相続人には代償金を支払うという方法もあります。この場合、債務額を考慮した上で代償金の額を決定します。
相続人それぞれの生活状況や経済状態、遺産に対する思い入れなどは異なります。代償分割は、こうした個別の事情を考慮しながら、相続人全員が納得できる遺産分割を実現するための柔軟な方法といえるでしょう。
3. 代償金の金額の決め方
代償分割を行う際、もっとも重要なのが代償金の金額をどのように決めるかという点です。代償金の額が適切でなければ、相続人間で不公平が生じてしまい、トラブルの原因となります。
ここでは、代償金の金額を決める際の基本的な考え方と具体的な方法について解説します。
3.1 遺産の評価方法
代償金を計算する前提として、遺産の価値を正確に評価することが不可欠です。遺産の種類によって評価方法が異なるため、適切な方法を選択する必要があります。
不動産の場合、複数の評価方法が存在します。相続税評価額(路線価)、固定資産税評価額、不動産鑑定士による鑑定評価額、実勢価格(時価)などがあり、どの評価方法を採用するかによって金額が大きく変わります。
一般的には、相続税の計算では相続税評価額を用いますが、遺産分割協議では実勢価格に近い評価額を用いることが公平とされています。
株式や有価証券については、上場株式であれば相続開始日の終値や相続開始日の月の平均株価などを参考にします。
非上場株式の場合は、会社の純資産や収益力などを考慮した評価が必要となり、専門家による評価が求められます。
| 遺産の種類 | 主な評価方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 不動産 | 相続税評価額、固定資産税評価額、鑑定評価額、実勢価格 | 評価方法により金額が大きく異なる |
| 上場株式 | 相続開始日の終値、月平均株価 | 市場価格がベース |
| 非上場株式 | 純資産価額方式、類似業種比準方式 | 専門家の評価が必要 |
| 現金・預貯金 | 額面金額 | 評価が明確 |
| 自動車 | 中古車市場価格 | 査定による評価 |
自動車や貴金属、骨董品などの動産は、専門業者による査定や市場での取引価格を参考にします。これらの評価については、相続人全員が納得できる方法を選ぶことが重要です。
3.2 相続分に基づく代償金の計算
遺産の評価額が決まったら、各相続人の相続分に基づいて代償金を計算します。法定相続分または遺言で指定された相続分に従って、各相続人が本来受け取るべき金額を算出します。
具体的な計算方法を例で説明します。たとえば、相続人が子2人(長男と次男)で、遺産が評価額4000万円の不動産のみの場合、法定相続分は各2分の1ずつです。長男が不動産を取得する場合、次男の相続分である2000万円を代償金として支払うことになります。
計算式は以下のとおりです。
代償金 = 遺産の評価額 × 代償金を受け取る相続人の相続分
複数の遺産がある場合は、各遺産の評価額を合計した総額をもとに計算します。
たとえば、不動産3000万円、預貯金1000万円で合計4000万円の遺産があり、長男が不動産を、次男が預貯金を相続する場合、長男の取得額は3000万円、次男の取得額は1000万円となります。
法定相続分は各2000万円ずつですので、長男は次男に対して1000万円の代償金を支払う必要があります。
相続人が3人以上の場合や、配偶者と子が相続人となる場合など、相続分が複雑になるケースでは、それぞれの法定相続分を正確に把握したうえで計算することが必要です。
3.3 当事者間の協議による決定
代償金の金額は、必ずしも法定相続分どおりに計算する必要はありません。相続人全員が合意すれば、自由に金額を決めることができます。これが遺産分割協議の柔軟性であり、各ご家庭の事情に応じた解決が可能となります。
たとえば、不動産の評価額について相続人間で意見が分かれる場合、双方が納得できる中間的な金額で合意することもあります。
また、遺産を取得する相続人の経済状況を考慮して、代償金の額を調整したり、支払い方法を分割にしたりすることも可能です。
被相続人の介護をしていた相続人に対して、他の相続人が配慮して代償金で調整するといったケースもあります。
協議で決める場合のポイントは、以下のとおりです。
- 遺産の評価方法について相続人全員で合意する
- 代償金の額だけでなく、支払い時期や方法も明確にする
- 合意内容を遺産分割協議書に詳細に記載する
- 税務上の問題がないかを確認する
相続人全員が納得して合意することが、後のトラブルを防ぐ最も重要な要素です。
3.4 調停や審判での決定
相続人間で代償金の額について合意できない場合は、家庭裁判所での遺産分割調停や審判を利用することになります。調停では調停委員が間に入って話し合いを進め、審判では裁判官が代償金の額を判断します。
調停では、調停委員が各相続人の主張を聞き取り、専門家の意見も参考にしながら、妥当な代償金の額について調整を図ります。
不動産の評価が争点となっている場合は、裁判所が不動産鑑定士に鑑定を依頼することもあります。鑑定費用は通常、相続人が負担しますが、より客観的な評価額を得られるメリットがあります。
調停でも合意に至らない場合は、自動的に審判手続きに移行します。
審判では、裁判官が職権で遺産を評価し、法定相続分に基づいて代償金の額を決定します。審判で決定された内容には法的拘束力があり、相続人はこれに従わなければなりません。
調停や審判での評価は、一般的に以下のような基準で行われます。
- 不動産は不動産鑑定士による鑑定評価額を重視する
- 株式などは専門家の評価を参考にする
- 法定相続分で原則として計算する
調停や審判には時間と費用がかかるため、できる限り協議での解決を目指すことが望ましいですが、どうしても合意できない場合の選択肢として理解しておくことが重要です。

4. 代償分割のメリット
代償分割は、遺産分割の方法の中でも特に実用性が高く、多くのケースで活用されています。ここでは、代償分割を選択することで得られる具体的なメリットについて詳しく解説します。
4.1 遺産を現物のまま相続できる
代償分割の最大のメリットは、遺産を分割せずに現物のまま引き継げるという点です。特に不動産や事業用資産など、物理的に分けることが難しい財産について、その価値を損なわずに相続することができます。
たとえば、被相続人が住んでいた自宅を相続する場合、現物分割では土地や建物を物理的に分けることになり、資産価値が大きく下がってしまいます。
また、換価分割で売却してしまうと、思い出の詰まった家を手放さなければなりません。
代償分割であれば、自宅を取得したい相続人がそのまま所有権を得て、他の相続人には代償金を支払うことで公平性を保てます。
事業を営んでいた場合も同様です。工場や店舗、機械設備などを分割してしまうと事業の継続が困難になりますが、代償分割なら事業用資産を一体として承継し、事業を存続させることができます。
| 分割方法 | 遺産の状態 | 資産価値への影響 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 物理的に分割 | 価値が下がる可能性が高い |
| 換価分割 | 売却して現金化 | 売却コストが発生、急ぎの売却で安くなることも |
| 代償分割 | 現物のまま取得 | 価値を維持できる |
4.2 公平な遺産分割が実現できる
代償分割では、各相続人の法定相続分や遺産の評価額に基づいて代償金を計算するため、相続人全員が納得できる公平な分割が実現しやすくなります。
遺産が不動産のみで現金が少ない場合、現物分割では相続人ごとに受け取る財産の種類や価値に大きな差が生じてしまいがちです。
たとえば、長男が評価額3000万円の自宅を相続し、次男が評価額1000万円の土地を相続するといった形では、明らかに不公平が生じます。
代償分割であれば、長男が自宅を取得して次男に1000万円の代償金を支払うことで、それぞれが2000万円相当の財産を取得する形にでき、公平性が保たれます。このように、金銭で調整することで、遺産の種類に関わらず各相続人が同等の価値を受け取れるのです。
また、被相続人と同居していた相続人が自宅を引き継ぎたいといった、各相続人の希望や事情にも配慮しながら、金銭調整によって公平性を確保できる点も大きな利点です。
4.3 相続人間のトラブルを防げる
代償分割を活用することで、相続人間の対立や長期化する紛争を未然に防ぐことができます。
遺産分割をめぐる争いは、相続人同士の関係を悪化させ、場合によっては裁判にまで発展することもありますが、代償分割は合理的な解決策となります。
特に、「実家を誰が相続するか」といった問題は感情的な対立を招きやすい典型例です。
複数の相続人が同じ財産を欲しがる場合、現物分割では誰か一人しか取得できず、他の相続人は不満を抱えることになります。代償分割なら、財産を取得する人が明確になり、他の相続人は相応の金銭を受け取れるため、合意形成がしやすくなります。
また、換価分割のように「思い入れのある財産を売却したくない」という相続人と「早く現金化して分けたい」という相続人の間で意見が対立するケースでも、代償分割であれば両者の要望を満たせる可能性があります。
さらに、事前に代償分割の方針を決めて遺産分割協議書に明記しておくことで、後々の紛争を防ぐ予防的な効果も期待できます。明確なルールと計算方法があることで、感情的な対立が起きにくくなり、相続後も良好な親族関係を維持しやすくなるでしょう。
5. 代償分割のデメリットと注意点
代償分割は相続において有効な方法ですが、いくつかのデメリットや注意すべき点があります。事前にこれらを理解しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
5.1 代償金の準備が必要
代償分割を行うには、遺産を取得する相続人が他の相続人に支払う代償金を用意できることが前提となります。これが代償分割における最大のハードルといえます。
たとえば、5000万円の不動産を相続する場合、他の相続人に2500万円の代償金を支払う必要があるケースでは、相続人ご自身がその金額を現金で用意しなければなりません。
預貯金が十分にない場合、代償分割を選択することができなくなってしまいます。代償金の準備方法としては、以下のような選択肢があります。
| 準備方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 自己資金 | 金利や手数料がかからない | まとまった資金が必要 |
| 銀行借入 | 必要な金額を調達できる | 金利負担が発生する、審査がある |
| 不動産担保ローン | 相続した不動産を担保にできる | 返済できないと不動産を失うリスク |
| 分割払い | 一度に大きな金額が不要 | 相手方の同意が必要 |
特に注意すべきは、銀行からの借入を前提に代償分割を進めようとする場合です。相続人の収入や信用状況によっては、融資の審査に通らない可能性もあります。
遺産分割協議を成立させる前に、金融機関に事前相談しておくことが重要です。
5.2 遺産の評価をめぐる対立
代償金の金額を決めるためには、遺産の評価額を確定する必要があります。しかし、この評価額について相続人間で意見が対立することが少なくありません。
不動産の評価方法には、固定資産税評価額、相続税評価額、実勢価格(時価)などがあり、どの評価方法を採用するかによって金額が大きく変わります。
遺産を取得する相続人は低い評価額を主張し、代償金を受け取る側は高い評価額を主張するという対立が生じやすくなります。
たとえば、同じ不動産でも固定資産税評価額では3000万円、実勢価格では4500万円となるケースもあり、代償金の額に1000万円以上の差が出ることもあります。
このような対立を避けるためには、複数の不動産業者による査定や不動産鑑定士による鑑定評価を取得し、客観的な評価額を基準とすることが有効です。ただし、不動産鑑定士による鑑定には数十万円の費用がかかる点にも注意が必要です。
5.3 代償金の支払いができない場合のリスク
遺産分割協議で代償分割に合意し、協議書にも署名押印したにもかかわらず、実際に代償金を支払えない事態が発生すると、深刻なトラブルに発展します。
具体的には、代償金の支払いができないと、裁判所を通じた強制執行の手続きが必要となったり、相続人全員の新たな合意によって協議をやり直す(合意解除)といった特別な対応が必要になったりします。
こうしたリスクを避けるためには、次のような対策が考えられます。
- 遺産分割協議の段階で、確実に支払える金額かどうかを慎重に検討する
- 一括払いが難しい場合は、分割払いの条件を協議書に明記する
- 代償金の支払期限を現実的な期間に設定する
- 万が一支払えない場合の対処方法を事前に協議しておく
分割払いにする場合は、支払回数、各回の支払額、支払期日、遅延した場合の遅延損害金などを遺産分割協議書に詳細に記載しておくことが重要です。また、支払いの確実性を高めるために、連帯保証人を立てる、相続した不動産に抵当権を設定するといった方法も検討できます。
代償分割を選択する際は、これらのデメリットと注意点を十分に理解し、自分の資力で確実に代償金を支払えるかどうかを慎重に判断することが必要です。不安がある場合は、弁護士や税理士などの専門家に相談し、最適な遺産分割方法を検討することをおすすめします。
6. 代償分割の手続きの流れ
代償分割を行う際には、適切な手順を踏むことが大切です。ここでは、代償分割の具体的な手続きの流れについて、実務の観点から詳しく説明します。
6.1 遺産分割協議での合意
代償分割を行うためには、まず相続人全員による遺産分割協議で合意を得る必要があります。相続人全員の同意がなければ代償分割は成立しません。
協議では以下の事項について話し合います。
| 協議事項 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 遺産の確認 | どのような財産があるのか、全体像を把握する |
| 遺産の評価 | 不動産や株式などの財産をいくらと評価するか決める |
| 取得者の決定 | 誰がどの財産を取得するのか決める |
| 代償金の額 | 他の相続人に支払う代償金の金額を決める |
| 支払方法 | 一括払いか分割払いか、支払期限はいつかを決める |
協議は相続人全員が集まって行うのが理想ですが、遠方に住んでいる場合などは電話やメール、オンライン会議などを活用することもできます。ただし、最終的な合意は必ず書面で残すことが重要です。
協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。調停でも合意に至らない場合は、審判によって裁判所が遺産分割の方法を決定します。
6.2 遺産分割協議書の作成
協議で合意ができたら、その内容を遺産分割協議書にまとめます。遺産分割協議書は相続手続きにおいて非常に重要な書類で、不動産の名義変更や預貯金の解約などに必要になります。
代償分割を行う場合の遺産分割協議書には、以下の内容を記載します。
- 被相続人の氏名、本籍、最後の住所、死亡日
- 相続人全員の氏名と続柄
- 各相続人が取得する財産の詳細(不動産は登記簿どおりに記載)
- 代償金の金額
- 代償金を支払う人と受け取る人
- 代償金の支払期限や支払方法
- 作成日
- 相続人全員の署名と実印での押印
代償金に関する記載例は以下のとおりです。
「相続人Aは、上記遺産を取得する代償として、相続人Bに対して金3000万円を支払う。支払期限は令和○年○月○日までの一括払いとする。」
遺産分割協議書には相続人全員が署名し、実印を押印します。そして、各相続人の印鑑証明書を添付します。印鑑証明書は発行から3か月以内のものが必要となる場合が多いため、注意が必要です。
遺産分割協議書は相続人の人数分作成し、各自が1通ずつ保管するのが一般的です。原本が必要な手続きが複数ある場合に備えるためです。
6.3 代償金の支払いと登記手続き
遺産分割協議書が完成したら、合意内容に従って実際に代償金の支払いと財産の名義変更を行います。
代償金の支払いは、協議書で定めた期限までに行う必要があります。支払方法としては、銀行振込が一般的です。振込の際は、振込記録を必ず保管しておくことが大切です。後日トラブルになった場合の証拠となります。
代償金の支払いと並行して、不動産などの名義変更手続きを進めます。不動産の相続登記は以下の流れで行います。
| 手続きの段階 | 内容 |
|---|---|
| 必要書類の準備 | 遺産分割協議書、印鑑証明書、戸籍謄本、住民票、固定資産評価証明書など |
| 登記申請書の作成 | 法務局の様式に従って申請書を作成 |
| 登録免許税の納付 | 不動産の評価額の0.4%を納付 |
| 法務局への申請 | 管轄の法務局に書類を提出 |
| 登記完了 | 通常1~2週間程度で登記が完了 |
預貯金や株式などの金融資産についても、金融機関の所定の手続きに従って名義変更や解約を行います。各金融機関によって必要書類が異なるため、事前に確認しておくとスムーズです。
代償金を分割払いにした場合は、支払いが完了するまで定期的に確認を行うことが重要です。万が一、支払いが滞った場合は、遺産分割協議書に基づいて支払いを求めることになります。
なお、相続税の申告が必要な場合は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に申告と納税を行う必要があります。代償分割を行った場合は、相続税の計算において代償金の授受を適切に反映させる必要があるため、税理士に相談することをおすすめします。
7. 代償分割でトラブルになりやすいポイント
代償分割は遺産を公平に分けるための有効な方法ですが、実際の相続の現場ではいくつかのポイントでトラブルになることがあります。ここでは、代償分割でよく起こる問題と、その対処法について解説します。
7.1 代償金額で合意できない場合
代償分割で最も多いトラブルが、代償金の金額について相続人同士が合意できないというケースです。
特に不動産の評価をめぐっては、相続人の立場によって主張が大きく異なることがあります。不動産を取得する相続人は評価額を低く見積もりたいと考え、代償金を受け取る相続人は評価額を高く見積もりたいと考えるためです。
このような場合、当事者間での話し合いで解決できなければ、不動産鑑定士による鑑定評価を取得することが一つの解決策となります。
ただし、鑑定費用として数十万円程度かかることがあるため、費用負担についても事前に協議しておく必要があります。
また、家庭裁判所の調停や審判になった場合は、裁判所が適切と認める評価方法が採用されることになります。多くのケースでは、相続税評価額を基準としつつ、実勢価格も参考にして決定されます。
7.2 代償金の支払い期限や分割払い
代償金の金額について合意できても、支払い方法や支払い時期をめぐってトラブルになることがあります。
代償金を支払う側は、まとまった現金を用意する必要があるため、すぐには支払えないケースもあります。このような場合、分割払いを希望することがありますが、受け取る側は一括払いを求めることが多く、意見が対立します。
分割払いを認める場合には、遺産分割協議書に以下の内容を明記しておくことが重要です。
- 支払い回数と各回の支払い金額
- 支払い期日(毎月○日など具体的に)
- 支払い方法(銀行振込など)
- 遅延した場合の遅延損害金の利率
- 期限の利益喪失条項(一度でも支払いが遅れた場合は残額を一括払いする等)
また、分割払いを認める代わりに、不動産に抵当権を設定するなど、支払いを確保するための担保を設定することも検討すべきです。
支払い期限については、遺産分割協議成立後すぐなのか、不動産の相続登記が完了してからなのかなど、タイミングを明確にしておかないと後々トラブルになります。
7.3 代償金が支払われない場合の対処法
遺産分割協議で代償金の支払いについて合意したにもかかわらず、実際に代償金が支払われない場合の対処法を知っておくことは重要です。
まず、遺産分割協議書は契約書としての効力を持つため、支払いがされない場合は債務不履行として、民事訴訟を提起することができます。訴訟で勝訴判決を得れば、強制執行により相手の財産を差し押さえることが可能です。
ただし、訴訟には時間と費用がかかります。そのため、まずは内容証明郵便で支払いを催促し、それでも支払われない場合は、簡易裁判所の支払督促手続きを利用することも選択肢となります。
また、事前に対策を講じておくことも大切です。代償金の支払いに不安がある場合は、以下のような方法を検討しましょう。
| 対策 | 内容 |
|---|---|
| 抵当権の設定 | 取得する不動産に抵当権を設定し、支払いが滞った場合は競売できるようにする |
| 連帯保証人 | 第三者に連帯保証人になってもらう |
| 公正証書の作成 | 遺産分割協議の内容を公正証書にし、強制執行認諾条項を入れる |
特に公正証書で遺産分割協議書を作成し、強制執行認諾条項を入れておけば、支払いがされない場合に訴訟を経ずに直接強制執行が可能となります。これにより、時間と費用を大幅に節約できます。
なお、相続税の申告期限(相続開始を知った日から10か月以内)との関係も考慮する必要があります。代償金の支払いが完了していなくても、遺産分割協議が成立していれば相続税の申告は可能ですが、税務上の扱いについては税理士に相談することをおすすめします。

8. 弁護士に相談すべきケース
代償分割による遺産分割を進める際、弁護士への相談が必要となるケースがあります。専門家のサポートを受けることで、スムーズな解決や不利益の回避が可能になります。
8.1 遺産分割で揉めている場合
相続人間で意見の対立があり、遺産分割協議が難航している場合は、早期に弁護士に相談することが重要です。
感情的な対立が深まる前に、法的な観点から公平な解決策を提示してもらうことで、円滑な協議が期待できます。
特に、代償分割を提案しても他の相続人が応じない場合や、遺産の評価額について大きな意見の相違がある場合には、弁護士が間に入ることで客観的な基準に基づいた話し合いが可能になります。
また、相続人の一部と連絡が取れない、協議に参加してもらえないといった状況では、調停や審判の手続きが必要になることもあります。弁護士に依頼することで、適切な法的手続きを選択し、代理人として交渉や裁判所での手続きを進めてもらえます。
8.2 代償金の計算が複雑な場合
代償金の金額を決定する際、遺産の評価が複雑なケースでは専門的な知識が必要です。
不動産が複数ある場合や、事業用資産・株式などが含まれる場合、適正な評価方法を選択し正確に計算することが求められます。
| 評価が複雑なケース | 弁護士のサポート内容 |
|---|---|
| 複数の不動産 | 不動産鑑定士と連携した適正評価の実施 |
| 非上場株式 | 税理士と協力した評価額の算定 |
| 事業用資産 | 事業承継を考慮した分割方法の提案 |
| 負債 | 債務の評価と代償金額への反映 |
弁護士は不動産鑑定士や税理士などの専門家と連携しながら、適切な評価方法を選択し、法的に妥当な代償金額を算出します。また、複数の評価方法がある場合には、どの方法を採用すべきか法的な観点からアドバイスを受けられます。
8.3 税務面での不安がある場合
自宅不動産を取得するような場合の代償分割には相続税の特例措置があり、適切に処理しないと税務上不利になる可能性があります。
相続税の申告や代償金の税務上の取り扱いについて不安がある場合は、税務に詳しい弁護士や税理士への相談が推奨されます。
9. よつば総合法律事務所が選ばれる理由
9.1 相続チームによるサポート
当事務所には相続に特化した専門チームを設置しています。定期的に開催しているミーティングでノウハウの共有や案件の検討を行うことで、経験豊富な弁護士が依頼者にとっての最良の解決策を見つけます。
9.2 他の専門家との協力によるワンストップ対応
相続が発生したときは、税金の申告や登記などの手続きのために弁護士以外の専門家の協力が不可欠です。
当事務所では、連携している税理士や司法書士、不動産鑑定士と共にワンストップで案件の解決に対応することが可能です。
9.3 アクセス良好な事務所
当事務所は大名古屋ビルヂング内に事務所を構えています。名古屋駅直結でアクセス良好のため、愛知県内の方だけでなく、三重県や岐阜県の方でも気軽にお越しいただくことができます。
9.4 オンラインでの相談可(全国対応可能)
親族間の相続のトラブルは精神的な負担が大きいことが多いです。当事務所は、早急なご相談に対応するため、依頼者の希望に合わせて電話の他にもZoomなどのオンラインでのご相談を受け付けております。
また、相談は全国対応可能です。
9.5 初回相談無料
当事務所では、相続に関するご相談は初回60分無料で対応いたします。弁護士費用が発生する場合は、事前にお見積りを作成いたします。まずはお気軽にお問い合わせください。
10. まとめ
代償分割は、不動産や事業用資産など分割が難しい遺産を相続する際に、取得する相続人が他の相続人に代償金を支払うことで公平な遺産分割を実現する方法です。
遺産を現物のまま維持できるメリットがある一方、代償金の準備や遺産評価をめぐる対立などの課題もあります。
代償金の金額は相続人間の協議で決定するのが基本ですが、合意できない場合は調停や審判で決められます。
代償金額で揉めている場合、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
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